組織の進化は失敗したのか
「新しい働き方(New ways of work)のムーブメントは失敗したのか?」
ここ最近、英語圏ではこの問いが軽く流行っている。みんな色々と言いたくなるテーマでもあるんだろう。
たとえば組織系のコンサルティング会社であるThe Ready(米・英など)のPodcastでは「The Ways of Working Movement Failed. Now What?」と題して、「ムーブメントは失敗した」という前提から始まる。
アジャイル出身の実践者が集まるイベントでは、かつて企業内でアジャイルコーチや変革担当をしていた人々が、部署ごと廃止された経験を語り合っていた。よく語られる成功事例はBuurtzorg、Haier、Morning Starなどで、その顔ぶれは10年前から変わっていない。総じて「違うアプローチが必要だ」というニュアンスで語られる。
『ムース・ヘッズ・オン・ザ・テーブル』の共著者でもあり、ティール組織の世界的なムーブメントに最前線で関わってきたLisa Gillも、直近の自身のニュースレターで「ムーブメントは失敗だったのか?」を論じる。それをポストしたLinkedinにも色んなコメントが付いた。Lisa自身は、「国・地域による差はある」ものの、「全体として変化は起きている」という視点で語る。
一見すると正反対の主張にも見えるものの、両社の語る前提が違う。
前者のThe Readyは、主に「コンサルティング会社としての自分たち」の内省であり、対するLisaは「ムーブメント全体の変化」を語っている。具体的な変化を促す「支援者」としては十分な成果だと思えず(The Ready)、一方で社会全体を俯瞰した「変化」は確かに起きている(Lisa)。
では、翻って、日本の状況はどうだろうか。
大きくは似たような状況だと言える。マクロで見ればこの10年で実践例は確実に増えたものの、ミクロの1社1社の試行錯誤では成功よりも失敗のほうが遥かに多いはずだ。
個人的には、その状況が「ムーブメントの失敗」だとは思わない。ペース・レイヤリングで語られるように、変化の早さとレイヤーの深さは反比例する。1社1社の試行錯誤という「早い変化」と、「組織」に関する人類の共通理解という「遅い変化」は、時間差があって当然だ。先ほどの両社(The Ready、Lisa)の主張は同時に成り立つ。
さらに加えるならば、これは「日本」でも「アメリカ」でも「スロベニア」でも、結局は大差がないように思う。国・地域の進捗を比較して語ることに、最近はあまり意義を感じない。どんな場所でも変化に挑戦している企業は必ずあるし、一方で世界中どこに行っても、自律型組織は決してメインストリームではない。
人類の「組織」の知恵・知見の変化というスケールで考えると、この数十年に掛けて特に広がった中央集権的なヒエラルキー型からの転換は(進化というより回帰かもしれないが)、まだ始まったばかりのタイミングだ。
令三社/山田裕嗣
プログラム
【日本初開催】実践的リーダーシップ&対話プログラム
2026年に翻訳・出版した『Moose Heads on the Table』の背景にある、Tuff Leadership Trainingの中核となる考え方と実践を凝縮した日本初のパイロットプログラムです。
ヨーロッパで25年以上実践されてきた自律型組織を機能させるリーダーシップを体得するプログラムです。完全オンライン、全8回、限定12名、10〜11月に開催です。
イベント
【8/3@東京】AI時代のサプライチェーン マネジメントのあり方とは?ー経営、人・組織、事業、テクノロジーの観点から問うー
SCM(サプライチェーンマネジメント)と題されるイベントながら、名和高司先生が登壇し、「AIエージェント」「知識創造型SCM」「Agent Ready」「自律型組織」など、テクノロジーからも人・組織からも、これからの経営のあり方を考えるユニークな機会です。
【8/5@東京】立ち止まれる組織を再設計するには?自律の先を3つの問いから考える
JTのR&D組織「D-LAB」が主催する「立ち止まれる社会プロジェクト」の一環として、神保町のUnknown Unknownにてお話する機会をいただきます。
自律型組織は「立ち止まれる」のか?
自然な人間観から組織を設計し直すとは?
サバイブとアライブは両立するのか?
という3つの問いを起点に、ざっくばらんに対話させていただきます。
書籍
『身体化された心』(F.ヴァレラ)
1991年に出た原著は、「身体で考える」という認知科学の新しい見方を最初に打ち出した本の一つだそうだ。それまでの認知科学は、大きく二つの考え方の間で揺れてきた。頭の中に世界のコピーを作って処理するという「認知主義」と、パターンが自然に生まれることを重視する「コネクショニズム」。
この本が提示するのは、そのどちらでもない。体を通して環境とつながりながら、その積み重ねで世界と心を一緒に作る。それが本書のキーワードである「エナクション(行為から生み出す)」となる。世界は最初からそこにあるのではなく、生き物が行動してきた歴史そのものとして立ち上がる。
読むのに骨が折れる本ではある。ただ、AIと人間を並べて考える今だからこそ、余計に味わいたくなる一冊。


